深夜の住宅街に響いた発砲音
2026年3月4日午前4時15分ごろ、広島県福山市川口町1丁目の一般住宅で「もめごとが起きている」との110番通報があった。駆けつけた福山東署員が家族の安全を確保したところ、午前4時30分ごろ、屋内から拳銃のような発砲音が確認された。
住宅の周囲200〜300メートルが規制され、付近住民には避難が呼びかけられた。近隣の小学校7校・中学校2校、計9校が休校(当初は自宅待機)となるほどの物々しい事態となった。
「今朝サイレンの大きな音がしたけえ、パトカーがバンバンバン来たけえね」「心配すね。こんな近所では初めてですね」——周辺住民の証言が、事件の異常性を物語る。
5時間の対峙、そして突入
警察は慎重に対応を進め、通報から約5時間が経過した午前9時すぎ、ついに警察官が住宅内に突入した。
室内で発見されたのは、頭部から血を流して倒れている男だった。消防が駆けつけた時点で心肺停止状態にあり、その場で死亡が確認された。男の近くには拳銃のようなものが落ちていた。
警察は現場の状況から、男が拳銃を使って自殺を図った可能性があるとみて捜査を進めた。子どもを含む住人家族3人は、男が侵入した後に自力で逃げ出しており、無事だった。
死亡した男の正体——浅野組傘下「中岡組」の組員
翌5日、広島県警の調べにより死亡した男の身元が判明した。
男は指定暴力団浅野組傘下の中岡組の組員で、拳銃のようなものを使って自殺をした可能性があるとみられている。警察はこの男が無断でこの家に侵入したとみて5日から現場検証を始め、事件のいきさつを詳しく調べている。
年齢は49歳。住宅の住民とは面識があったとみられ、警察は銃刀法違反と住居侵入の容疑で捜査を進めている。被疑者が死亡しているため刑事裁判にかけられることはないが、拳銃の入手経路や侵入の経緯については捜査が継続されている。
現場はJR福山駅から南東約3キロの一般的な住宅街。なぜ暴力団組員が一般家庭の住宅に拳銃を持って侵入したのか——「もめごと」の詳細はまだ公表されていない。
「中岡組」とはどのような組織か
今回の事件に組員が関与した「中岡組」とはどのような組織なのか。その背景を整理する。
親組織・浅野組の歴史
中岡組の親組織は指定暴力団・浅野組だ。昭和20年(1945年)頃、大山国男が現在の岡山県笠岡市を本拠に結成した「大山一家」を直接の起源とする。昭和27年(1952年)に一家が解散すると、その幹部であった浅野眞一が新たに「浅野組」を結成。府中の「原田組」などとの「備後戦争」と呼ばれる対立抗争を繰り広げながら勢力を吸収拡大し、広島県東部から岡山県西部にかけてを勢力範囲とするに至った。
戦後の混乱期から70年以上にわたって西日本に根を張るこの組織は、山口組とも複雑な関係を持ちながら独立系として存続してきた。平成31年(2019年)1月、浅野組は総裁制を導入し、中岡豊が新設された総裁へ、組長には五代目浅野組若頭・重政宜弘がそれぞれ就任した。
中岡組の概要
浅野組系中岡組は広島県福山市昭和町10-9に本部を置く暴力団組織で、自社ビルを所有していることからもかなり資金力のある組織だということがわかる。浅野組は岡山県笠岡市~広島県福山市の一帯を仕切っている組織となっている。
中岡組は浅野組の二次団体として位置づけられる。初代組長は浅野組の総裁に就いた中岡豊で、二代目は北川修が継承している。
組織としての主な活動拠点が福山市であり、今回の立てこもり事件が起きた川口町もその活動エリアと重なる。
近年の摘発事例
中岡組はここ数年、広島・岡山両県警から繰り返し捜査対象とされてきた。
広島県警組織犯罪対策2課と岡山県警組織犯罪対策1課は、指定暴力団浅野組中岡組幹部ら2人を広島県暴力団排除条例違反の疑いで逮捕した事件に絡み、岡山県笠岡市笠岡の浅野組本部事務所と広島県福山市昭和町の中岡組事務所を家宅捜索した。この際の容疑は、福山市内のラウンジ経営者からみかじめ料を受け取ったというものだった(2024年10月)。
また、広島県警組織犯罪対策2課や福山西署などの合同捜査本部は、指定暴力団浅野組中岡組、重政組の組員2人を強要容疑で再逮捕した事件に絡み、福山市昭和町の中岡組事務所と岡山県井原市の重政組事務所を家宅捜索した。(2024年11月)

さらに2023年2月には、広島県警福山東署が、福山市内に事務所を置く傘下の組長二人に対し、暴力団対策法に基づく組事務所への代紋の掲示を中止するよう命令を出した。
これらの事例から見えるのは、中岡組が福山市内において利権を巡って継続的に活動し、当局からの圧力を受け続けているという実態だ。
残された疑問
今回の事件について、現時点で判明していないことは多い。
死亡した男が「無断侵入」したとみられていることは報じられているが、なぜその住宅に侵入したのか、「もめごと」の具体的な内容は何だったのかは公表されていない。組の内紛なのか、個人的なトラブルなのか、住民との間に何らかの利権上の関係があったのか——現時点では不明だ。
また最大の疑問は拳銃の入手経路だ。日本では拳銃の所持は銃刀法で原則禁止されており、一般市民が入手できるものではない。暴力団組員が拳銃を保有していたという事実は、組織的な密輸・管理の可能性を示唆する。警察は引き続き入手経路の解明を進めるとしている。
事件の概要(まとめ)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生日時 | 2026年3月4日 午前4時15分ごろ |
| 場所 | 広島県福山市川口町1丁目の一般住宅 |
| 死亡した男 | 49歳・指定暴力団浅野組傘下中岡組組員 |
| 発砲確認 | 午前4時30分ごろ(警察官が住宅外で確認) |
| 警察突入 | 午前9時すぎ |
| 住民の安否 | 子どもを含む家族3人は全員無事 |
| 捜査容疑 | 銃刀法違反・住居侵入(被疑者死亡のため書類送検の方向) |
| 現場検証 | 3月5日から開始 |
| 休校対応 | 近隣小中学校計9校が休校 |
本記事は2026年3月5日時点の報道をもとに作成しています。捜査は継続中であり、今後の広島県警の発表によって内容を更新します。


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