死刑囚が拘置所で特許取得⁉|渡辺藤男という男

凶悪事件

渡辺 藤男(わたなべ ふじお)は、かつて「発明家死刑囚」として世間の注目を集めた人物です。彼は発明家として排気ガス浄化装置の開発など技術的業績を残しましたが、一方で強盗殺人事件を起こして死刑判決を受けました。本記事では、渡辺藤男の発明家としての一面と、彼が起こした事件および裁判の経緯について、中立的な視点でまとめます。

発明家としての業績

渡辺藤男は1936年に静岡県で生まれ、みかん農家の家庭で育ちました。高等学校卒業という学歴ながら発明の才に恵まれ、若い頃にはバス座席にスプリングを取り付けて乗り心地を向上させる特許を取得したこともありました。その技術的発想力は周囲を驚かせ、実用化への期待も寄せられました。

逮捕後、拘置所に収容されてからも彼の発明への情熱は失われませんでした。贖罪の思いから自動車の排気ガスを浄化する装置を紙と鉛筆だけで考案し、1970年9月末にはその浄化装置が特許庁から実用新案として正式に登録されます。高度経済成長期の当時、日本では大気汚染が社会問題化し始めていた時期であり、自動車排気ガスの有害物質低減は社会的にも重要な技術課題でした。渡辺の発明した装置はまさにその課題に取り組むもので、排気ガス中の汚染物質を減らすことを目的としていました。その功績により彼はメディアから「発明家死刑囚」とも呼ばれ、技術者としての側面が注目されることになります。

強盗殺人事件の概要

しかし、渡辺藤男は発明家であると同時に、重大な犯罪の首謀者でもありました。1969年2月21日、渡辺(当時33歳)は2人の共犯者とともに、静岡県御殿場市の質屋経営者(当時47歳)に架空の株取引話を持ちかけ、現金500万円を用意させた上で沼津市内のバーに呼び出しました。バーで経営者に睡眠薬入りの酒を飲ませて昏倒させた後、渡辺らは経営者を絞殺し、殺害しました。犯行グループは遺体を田方郡函南町の山林に埋め、現金約428万円と高級腕時計(時価40万円相当)を奪いました。この事件は被害者が大金とともに失踪したことから「死体なき殺人事件」として世間の注目を集め、警察も行方を追う特異な事案となりました。

捜査の過程で、静岡県警は御殿場警察署に特別捜査本部を設置し、地道な聞き込みにより渡辺を含む犯行グループの存在を突き止めます。事件発生から約7か月後の1969年9月16日、被害者の遺体が山中で発見され、共犯の男2人がその日に逮捕されました。さらに、遺体の運搬・遺棄に関与した別の協力者2名も逮捕されました。一方の渡辺藤男は犯行後に逃亡を続け、約1年もの間行方をくらまします。警察は全国指名手配し執拗に追跡しましたが、1970年1月31日になってようやく福岡県門司市内で潜伏中の渡辺を発見・逮捕しました。こうして事件発生から約1年を経て主要犯である渡辺が捕らえられ、強盗殺人と死体遺棄の容疑で起訴されるに至ったのです。

犯行の動機は金銭目的とみられています。株取引の名目で多額の現金を用意させた計画的な犯行であり、渡辺らは借金や金銭的欲求から犯罪に及んだと推測されました。裁判で渡辺は殺意や計画性について詳細に語ってはいませんでしたが、逃亡の末の逮捕という経緯からもその罪の重さは明白でした。

裁判と死刑判決までの経緯

渡辺藤男と共犯者たちの裁判は静岡で開かれ、その後東京の高裁・最高裁へと続きました。第一審から上告審まで、一連の審理は発明家としての一面を持つ死刑囚という異色のケースとして注目を集めました。特に控訴審では、渡辺が拘置中に環境技術の発明という贖罪の努力を示したことが考慮されるかが関心を呼びました。しかし最終的に、裁判所はその努力をもってしても犯罪の重大性を覆すには至らないと判断しています。

  • 1971年7月16日(第一審判決): 静岡地方裁判所沼津支部は渡辺藤男に死刑判決を言い渡しました。
  • 1972年12月6日(控訴審判決): 東京高等裁判所は控訴を棄却。「しのびがたいが控訴棄却」と述べました。
  • 1974年12月20日(上告審判決): 最高裁判所が上告を棄却し、死刑が確定しました。
  • 1977年(死刑執行): 第一審から約6年後、死刑が執行されました(執行日は非公表)。

まとめ

裁判を通じて、渡辺藤男は自らの発明家としての才能を示しつつも、計画的かつ冷酷な強盗殺人という犯罪の責任から逃れることはできませんでした。発明による社会貢献の意欲が認められた異色の死刑囚ではありましたが、裁判官は「社会に与えた影響の重大さと命を奪った罪は、いかなる情状をもってしても軽視できない」という趣旨を示し、極刑をもって臨んでいます。渡辺藤男の事件は、才能ある発明家が一転して凶悪犯となり死刑に至った例として記憶されており、その背景には高度経済成長期の欲望や社会の闇も垣間見えると言えるでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました