春休みの賑わいの中で
2026年3月26日(木)午後7時15分ごろ、東京都豊島区東池袋のサンシャインシティ内「ポケモンセンターメガトウキョー」——子ども連れの家族や外国人観光客で賑わう、春休みの大型店舗に、警報音が響き渡った。
「中で刃物を持った人が暴れている。男性と女性が血を流して倒れている」
通報を受けた警察が駆けつけると、レジカウンター付近でアルバイト店員の**春川萌衣さん(21)**が刃物で刺されて倒れていた。春川さんはその後、搬送先の病院で死亡が確認された。
刺したのは春川さんの元交際相手、広川大起(26)。広川もその場で自らの首を刺し、搬送後に死亡した。
店内の防犯カメラには、広川が入店後、レジカウンター内にいる春川さんのもとへ一直線に向かい、いきなり襲いかかる様子が記録されていた。春川さんを刺した後、自分を刺し、倒れた春川さんに覆いかぶさって、意識を失う直前まで2人を交互に刺し続けた。春川さんは首を中心に10数か所を刺されていた。
警視庁巣鴨署は、交際解消後も執着を募らせた広川が「拡大自殺」を図ったとみて殺人容疑で捜査を進めていたが、広川の死亡により捜査は終結した。
「ここで働くのが夢だったので、かえたくない」——被害者・春川萌衣さん
春川萌衣さんは東京都八王子市在住、21歳のアルバイト店員だった。
春川さんは子どものころからポケモンが好きで、「いつかポケモンセンターで働きたい」という夢を持っていた。その夢をかなえ、2025年7月にポケモンセンターメガトウキョーでの勤務を始めた。
しかし、その「夢の職場」こそが、事件の引き金にもなっていた。
「ポケモンセンターのバイトはお前には合わない。辞めろ」
交際中だった広川にそう言われたことが、春川さんが別れを決断したきっかけだったという。警視庁への相談の際、春川さんはそう説明していた。
事件前、警視庁は春川さんに対し、広川がポケモンセンターの勤務先を把握していることを伝え、職場を変更するよう繰り返し助言していた。しかし春川さんは「ポケモンが好きで、ここで働くのが夢だったのでかえたくない」と答え、働き続けた。
春川さんを知る近隣住民は「とっても礼儀正しい子で、明るくて、兄弟が仲良くて」と振り返った。家族思いで、よく買い物を手伝い母親のサポートをしていたという。
2人の出会いから事件まで——経緯の詳細
2人の関係は2023年12月にさかのぼる。当時、広川と春川さんは八王子市内の同じファストフード店でアルバイトをしており、そこで知り合った。
交際が始まったのは2024年10月。しかし2025年7月、春川さんがポケモンセンターに転職したことを機に関係に変化が生じた。広川が「辞めろ」と繰り返すようになり、春川さんはこれを機に別れを決意。LINEのメッセージを拒否するなど、一切の連絡を絶った。
これ以降、広川の行動はエスカレートしていった。
仕事帰りの春川さんを待ち伏せ、自宅周辺までつきまとう行為を繰り返した。2025年12月25日(クリスマス)、春川さんが帰宅すると自宅玄関前に紙袋が置かれていた。中にはポケモンカードと1枚のメッセージカード——「今夜中に連絡をください。助けてください」。
春川さんはその日のうちに八王子署に相談。警察官が自宅まで送り届けたその帰路、周囲を見張るように立っている広川の姿があった。警視庁は危険性を認め、即日ストーカー規制法違反の疑いで逮捕。広川の車からは果物ナイフ1本が発見され、春川さんを盗撮していたことも判明した。
取調べで広川は「復縁をしたかった」と供述していた。
2026年1月、広川は略式起訴の上で釈放。警視庁は接近禁止命令を出した。この際、警視庁はカウンセリングを受けるよう働きかけたが、広川はこれを拒否した。釈放後の2月12日までは接触が確認されなかった。
しかし3月26日——事件は起きた。
広川大起の生い立ち——沖縄育ちのスポーツ少年
では、広川大起とはどんな人物だったのか。
週刊文春と集英社オンラインの報道により、その生い立ちの一端が明らかになっている。
広川は関東地方で生まれた。幼少期に両親が離婚し、小学校低学年の時に母親と共に関東地方から沖縄へ移って生活していた。母親と弟との3人暮らしだった。
沖縄での広川は、周囲の記憶に残る「スポーツ少年」だった。小学校時代から水泳を頑張っていて、『ザ・スポーツマン』といったタイプ。泳ぐのが速い同級生がいて、2人揃ってよく表彰されていたと同級生の保護者は語る。
小学校低学年の頃からスイミングスクールに通っていた広川は、地元水泳大会の上位入賞の常連で、中学でも水泳部に所属。中3の時に出場した水泳の県秋季選手県大会では、男子800メートルリレーの県中学新記録を出して優勝したメンバーの1人だった。背泳ぎでも大会で複数回の上位入賞を果たしていた。
東京の方で大会があり、沖縄代表に選ばれて出場するために東京駅までやって来たのを私が迎えに行った記憶があります。それが多分彼と会った最後で、その後は10年以上、ずっと会っていませんでした——親族のA子さんは取材にそう語った。
しかし中学校卒業後、広川は県内の公立高校に入学するも、大学進学は叶わず。やがて沖縄を離れた。
本人が大学受験に失敗し、しばらく沖縄で働いていたと聞いたと親族は証言している。その後、広川は首都圏に戻り、八王子市内で一人暮らしを始めた。母親も数年前に神奈川県内へ戻っており、広川は母親の体調が優れない中、庭の草刈りを手伝うなど親孝行な面もあったとA子さんは話す。
1年以上前には、母親から「大起に彼女ができた」という連絡もきました。その彼女さんがどのかたなのか、まではわからないですけどとA子さんは語った。その「彼女」が春川萌衣さんだったとみられている。
A子さんは取材に「原因…本当にわからないんです。なんでって思ってしまいます、本当に…。相手のお子さんがね…」と震える声で絞り出した。
問われる制度の限界——カウンセリング拒否と「強制介入」の壁
今回の事件では、警察が相当の対応をとっていたにもかかわらず事件を防げなかったことが、大きな問題として浮上している。
警視庁は春川さんに計9回接触し、職場変更の助言を繰り返した。広川を逮捕し、略式起訴し、禁止命令を出した。それでも事件は起きた。
元神奈川県警捜査一課長の鳴海達之氏は「かなりのことをやっている。実務的にはこれ以上何をするのかという段階だった」と述べた。現行法の枠内では、禁止命令・逮捕・定期的な状況確認が主な手段であり、それを超えた強制的な関与には法的根拠がない。
犯罪心理学が専門の筑波大学・原田隆之教授は「警察はできる限りの対応をしていたと思う」としながら、「ストーカー事件は毎年増えており、今までのやり方には限界がある。加害者にカウンセリングや治療を強制する手段がなく、本人が望まない限り介入できない構造になっている。国には真剣に検討していただきたい」と制度的欠陥を指摘した。
広川がカウンセリングを拒否したという事実は、この問題の核心を突いている。ストーカー加害者が自発的に治療に向かうことは心理学的に考えにくい。逮捕・起訴・罰金という法的制裁も、執着を自省に向かわせることができない場合、むしろ相手への怒りに転化するリスクがあると専門家は指摘する。
事件概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生日時 | 2026年3月26日(木)午後7時15分ごろ |
| 場所 | 東京都豊島区東池袋・サンシャインシティ内「ポケモンセンターメガトウキョー」 |
| 被害者 | 春川萌衣さん(21)、東京都八王子市在住のアルバイト店員 |
| 加害者 | 広川大起(26)、住所・職業不詳、事件後に死亡 |
| 死因(被害者) | 首等の刺傷(10数か所) |
| 2人の関係 | 元交際相手(2024年10月〜2025年7月) |
| 交際解消の経緯 | 春川さんのポケモンセンター就職を広川が妨害→春川さんが別れを決意 |
| 事前の経緯 | 2025年12月に広川をストーカー規制法違反で逮捕、2026年1月に略式起訴・釈放 |
| 逮捕時の状況 | 車内に果物ナイフ・盗撮行為も判明 |
| 捜査の対応 | 接近禁止命令・計9回の接触・職場変更の助言 |
| 問題点 | 広川がカウンセリングを拒否、現行法に強制介入の手段なし |
【編集部注】
本記事は事件発生翌日〜翌々日(2026年3月27〜28日)時点の報道を基に執筆しています。捜査は広川の死亡により終結しましたが、警察の対応検証や制度改正に向けた議論は今後も続く見通しです。春川萌衣さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
初出:2026年3月 / 未解決ジャーナル編集部


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