こんにちは!今日は、私たちの社会が抱える大切な問題、「ベビーライフ事件」について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。ちょっと難しい話に聞こえるかもしれませんが、これは未来を担う子どもたちの命と、その家族の幸せに関わる、とても重要な出来事なんです。
ベビーライフ事件って、どんな話?
ある日突然、消えた養子縁組団体
2020年7月、特別養子縁組のあっせんをしていた「一般社団法人ベビーライフ」という団体が、突然事業をやめてしまいました。しかも、代表者と連絡が取れなくなってしまったんです。
この団体は2009年から活動していて、親元で暮らすのが難しい子どもたちと、温かい家庭を求める養親さんたちをつなぐ、大切な役割を担っていました。ウェブサイトには「愛情あふれるサービスを提供します」「世界中の子どもたちに愛情のある家族を」なんて素敵な言葉が並んでいたんですよ。
でも、突然の閉鎖で、ベビーライフを通じて養子を迎えた家族や、一緒に働いていた元スタッフさんは、本当に困惑しました。特に問題なのは、子どもの出自(生まれた時の情報)に関わる大切な個人情報が、東京都にきちんと引き継がれなかったこと。東京都には422件の情報が引き継がれたそうですが、これらは法律で情報管理が義務付けられる前のものも多く、十分ではなかったんです。
元スタッフさんの話では、閉鎖までの数年間、スタッフの入れ替わりが激しかったそうです。小さな団体なのに、数十人もの人が辞めていったとか。国際的な養子縁組が増えたり、あっせん費用が高額だったりすることに、内部で反発もあったみたいですね。
この突然の閉鎖と代表者の行方不明は、単なる会社の倒産とはわけが違います。子どもの人生に直接関わる事業で、こんな無責任なことが起きてしまった。これは、民間団体全体の信頼を大きく傷つける出来事でした。
海外に渡った子どもたちの行方は?
この事件で一番胸が痛むのは、ベビーライフを通じて海外に渡った日本人の子どもたちの安否が、今もって確認できていないことです。ある調査によると、2012年から2018年度にベビーライフがあっせんした約307人の子どものうち、なんと174人(半分以上!)の養親が外国籍だったことが分かっています。内訳はアメリカが68人、カナダが106人だそうです。
そして、2025年3月の今も、この174人の子どもたちの安否は不明のままなんです。東京都が引き継いだ情報の中にも、海外で安否が確認されていない子どもが209人いると報じられています。
海外に渡った子どもたちが日本国籍を失ったのかどうかも分かっていません。法務省の見解では、15歳未満の子どもでも、親が外国籍を取得する申請をすれば、日本国籍を失う可能性があるとのこと。
こんな状況は、子どもが自分のルーツを知る権利(国連子どもの権利条約で定められています)を大きく侵害しています。日本は「ハーグ国際養子縁組条約」という国際的なルールに参加していないため、政府機関が国際養子縁組の数や子どもの出国記録を把握できていないのが現状です。だから、海外にいる子どもたちを守ったり、追跡したりするのがとても難しいんです。国内の法律の不備が、国際的な子どもの保護に大きな穴を開けてしまっているんですね。
代表者はどこへ?情報の引き継ぎはどうなった?
ベビーライフが事業を停止して以来、代表者の篠塚康智氏とは連絡が取れない状態が続いています。東京都は2022年2月に元代表から資料引き継ぎの連絡があったそうですが、それ以降の状況は不明だそうです。
事件が発覚した当初、国(厚生労働省、外務省、法務省)のどの省庁も、国際養子縁組の件数や出国記録を把握しておらず、「うちの管轄じゃない」というような状況でした。警察も、当時の法律では団体も代表も「違法行為ではない」ため、動けないと回答していたんです。
東京都は、ベビーライフが解散する直前に提携していたクリニックを調べ、数十人分の子どもの名前は分かったものの、それ以上の詳しい情報は得られていないと言っています。
代表者が行方不明で、警察も動けないという事実は、養子縁組あっせん事業において「誰が責任を取るのか」が曖昧だったこと、そして当時の法律が不十分だったことを示しています。たとえ道義的に問題があっても、法律で罰することが難しかったため、子どもたちの情報が失われ、安否確認ができないという深刻な事態を招いてしまったのです。これは、法律の「抜け穴」と、それを埋める行政の連携不足が招いた結果と言えるでしょう。
ベビーライフ事件の主な出来事(時系列)
年月 | 出来事 |
2009年 | ベビーライフ事業開始 |
2012年-2018年度 | あっせん活動期間(約300人のあっせんを実施) |
2016年 | 児童福祉法改正(家庭養育優先原則が明記) |
2016年 | 日本こども縁組協会設立(篠塚氏も登壇) |
2018年4月 | 養子縁組あっせん法施行(届出制から許可制へ移行) |
2018年9月 | ベビーライフが東京都に許可申請(審査中、経過措置で事業継続) |
2020年4月 | 民法等改正(特別養子縁組年齢要件緩和) |
2020年7月 | ベビーライフ突然事業停止、代表者消息不明 |
2020年7月 | 東京都に許可申請取り下げを連絡 |
2021年3月 | 読売新聞報道(海外養親174人判明、2億円受領報道) |
2021年3月-4月 | 国(厚労省/こども家庭庁)と東京都の対面打合せ(計2回実施) |
2021年5月 | 外務省が在外公館HPに案内掲載 |
2022年2月 | 元代表から東京都へ資料引き継ぎの連絡 |
2025年3月 | 174人の安否未確認の状況継続 |
安否不明の子どもたちの状況(2025年3月時点)
項目 | データ |
ベビーライフあっせん総数 | 約300人 |
養親が外国籍だった子どもの数 | 174人 (総数の半分以上) |
うちアメリカ籍養親 | 68人 |
うちカナダ籍養親 | 106人 |
2025年3月時点での安否未確認の子どもの数 | 174人 |
東京都が引き継いだ情報件数 | 422件 |
海外で安否確認がされていない子どもの数 (東京都把握) | 209人 |
海外からの情報提供対応件数 | 1件 |
事件が教えてくれた、法律や制度の課題
特別養子縁組って、どんな制度?民間団体の役割は?
特別養子縁組は、実の親が子育てが難しい状況にある場合に、子どもに新しい安定した家庭を提供し、健やかに育つことを助けるための制度です。子どもは家庭で育つのが一番、という国際的な考え方もあり、日本でも2016年の児童福祉法改正で、家庭での養育が優先されることがはっきりしました。
児童相談所のような公的な機関だけでは、予期せぬ妊娠や様々な事情を抱える女性への相談から養子縁組のあっせんまで、全てをカバーするのは難しいのが現実です。そこで、民間団体がその大切な役割を担うようになり、特別養子縁組の数も増えてきました。
法律の「抜け穴」と、その影響
ベビーライフ事件を受けて、養子縁組あっせん事業のルールをもっと厳しくする必要がある、とみんなが感じました。2018年4月には「養子縁組あっせん法」という新しい法律ができて、それまでの「届け出ればOK」という制度から、都道府県の「許可が必要」な制度に変わりました。目的は、お金儲けだけを目的としたり、不正なあっせんをしたりするのを防ぐためです。
ところが、ベビーライフが事業を停止した時、彼らはまだ東京都に許可申請を出している最中で、結果が出るまでの「経過措置」として、許可がなくても事業を続けられる状態だったんです。その後、2020年7月に申請を取り下げています。
新しい法律では、民間団体に帳簿をずっと保存することや、事業をやめる時に情報をきちんと引き継ぐことが義務付けられています。でも、ベビーライフがあっせんした活動の多くは、この法律ができる前やできたばかりの頃に行われたため、これらのルールが十分に適用されず、記録がきちんと引き継がれないまま廃業してしまったんです。
日本は国際的なルールに参加していない?
国際的な養子縁組で子どもたちを守るためのルールとして、「ハーグ国際養子縁組条約」というものがあります。でも、日本はこの条約を締結していません。その結果、政府機関が国際養子縁組の正確な数を把握できていないんです。
外務省も、ハーグ条約を締結していないから国際養子縁組の数は分からない、と回答しています。こども家庭庁、法務省、外務省のどの省庁も、今のところハーグ条約の締結を検討する話はないそうです。ハーグ条約は「子どもの最善の利益」を一番に考え、もし自国で育てることが難しい場合に、国際養子縁組を検討すべきだとしています。
日本がハーグ条約に参加していないことは、国際的な養子縁組における子どもの保護や情報管理において、国際協力の「空白地帯」を生み出しています。これでは、海外に渡った子どもの安否確認や出自情報の追跡がとても難しくなり、日本政府が自国民を守る責任を十分に果たせない状況に陥ってしまいます。国内の法律の限界が、国際的な問題に直結し、子どもの人権保護に深刻な影響を与えているのです。
政府機関の「縦割り」問題:誰が責任者?
ベビーライフ事件が明るみに出た時、国(厚生労働省、外務省、法務省)のどの省庁も、この問題に対して明確な責任を負っていませんでした。養子縁組あっせんの担当は厚生労働省ですが、今回の件は東京都が管轄する民間団体に関する問題で、「縦割り行政」の弊害が指摘されました。
政府機関同士の情報共有も不十分です。こども家庭庁は国際養子縁組の数を把握しておらず、子どもの出国日や国籍取得日を帳簿に残すようあっせん団体に「お願い」はしているものの、これは法律で義務付けられているわけではありません。法務省も、パスポート情報や出入国情報だけでは国際養子縁組を積極的に把握していないそうです。
東京都も「情報がないから対応に限界がある」と言い、代表と連絡を取ろうとはしているものの、現時点では「違法行為ではないから警察も動けない」という状況でした。
お金の話と、メディアの報道
あっせん費用って、なんでそんなに高いの?
民間団体による養子縁組あっせんには費用がかかることが認められていて、お金を受け取ること自体は法律でOKなんです。児童福祉法では、お金儲けを目的としたあっせんは禁止されていますが、交通費や通信費などの「実費」なら問題ないとされています。
読売新聞は、ベビーライフが海外の養親から「合計2億円を受け取った」と報じました。これに対して、こども家庭庁は、この金額は法律ができる前の民間団体が設定したものなのでコメントは難しいとしつつも、「今は(他の団体の費用は)100万円くらいなので、少し高い額だったとは言える」と指摘しています。他の養子縁組あっせん団体の費用相場は約97.5万円だそうです。
高額なあっせん費用の背景には、民間団体の運営事情があります。多くの団体は、予期せぬ妊娠をした女性への支援や、困難な状況にある実の親への相談など、直接お金にならない活動も行っています。これらの活動にかかる費用をまかなうために、養親からの費用が高額になる傾向があると考えられます。
「2億円受領」報道の衝撃
2021年4月21日の読売新聞が「ベビーライフ海外養親から計2億円受領」と報じたことで、この事件のお金に関する側面に大きな注目が集まりました。
こども家庭庁は、この金額が法律ができる前の民間団体が設定したものなのでコメントは難しいとしつつも、現在の相場と比べて高い額だったことを示唆しました。
「2億円受領」という報道は、ベビーライフ事件の金銭的な側面を強く印象付け、養子縁組あっせん事業におけるお金儲けの問題、そしてそれをきちんと監督する必要性について、社会的な関心を高めました。この報道は、単に事実を伝えるだけでなく、高額な費用が「人身売買」につながるのではないかという疑念を生み出し、結果的に法律の見直しや行政の監督強化へのプレッシャーとなりました。
メディア報道と、家族への影響
ベビーライフ事件に関するメディア報道は、その社会的な重要性を広く伝える役割を果たしました。でも、一部のメディアでは「人身売買」といった言葉を使って養子縁組制度そのものを批判したり、海外へのあっせんを問題視したりする声も見られました。
ベビーライフを通じて養子を迎えた養親さんたちは、こうした報道によって「子どもを不正に手に入れたと思われる」と傷つき、怒りを感じていると話しています。また、ベビーライフの元スタッフさんも、実の親や育ての親が不当な批判にさらされることを心配し、本当に責められるべきは、突然閉鎖して必要な引き継ぎをしないまま音信不通になったベビーライフと代表者だと強く訴えています。
事件が社会に与えた影響と、これからのこと
子どもが自分のルーツを知る権利、守られていますか?
ベビーライフが突然廃業したことで、子どもたちが自分のルーツを知るための大切な情報が失われる危機に直面しています。これは、国連子どもの権利条約で保障されている「出自を知る権利」の侵害にあたります。自分のアイデンティティを形成し、ルーツを理解する上で、この権利はとても大切で、一度失われると取り戻すのが非常に難しいんです。
養親さんたちは、子どもが将来自分のルーツを知るために、メディアの取材に応じるなどして、情報の保全を強く求めています。彼らの切実な願いは、この権利が世代を超えて守られることの重要性を示しています。国は、民間団体が廃業したり情報管理がずさんだったりしても、これらの情報を永続的に保護し、子どもたちがアクセスできる体制を整える最終的な責任を負うべきです。
民間あっせん機関の責任と、信頼を取り戻すには?
子どもの命と未来を預かる事業を、十分な説明もなく突然やめて、連絡を絶ったベビーライフの責任は、本当に重いものです。この事件は、真面目に運営している他の民間養子縁組団体全体の信頼を大きく揺るがしてしまいました。
ベビーライフ事件は、民間あっせん機関が負うべき社会的な責任の重さを改めて認識させると同時に、業界全体の信頼を取り戻すためには、個々の団体の倫理観だけでなく、業界全体で自浄作用を高めること、そして行政によるもっと厳格な品質保証や監督体制が不可欠であることを示唆しています。養子縁組あっせん法の許可制導入は一歩前進ですが、廃業時の情報引き継ぎ義務の徹底や、継続的なチェックが求められます。
再発防止のために、法律や制度はどう変わるべき?
ベビーライフ事件を教訓に、今後同じようなことが起きないように、法律や制度を見直し、強化することが急務となっています。山田太郎参院議員は、養子縁組の情報を一元化し、団体が廃業した時にきちんと情報が引き継がれる仕組みを国が作る必要があると強く主張しています。具体的には、特別養子縁組に関する情報をデータベース化することが提案されています。
今の制度では、国際養子縁組を隠れ蓑にして子どもが海外に連れて行かれても、日本政府がその安否すら確認できない、という点が大きな問題として指摘されています。
再発防止のためには、単に法律を厳しくするだけでなく、民間団体が廃業するという「もしもの時」を想定した法律の設計が不可欠です。特に、子どもの出自情報の一元管理と、廃業時に確実に情報が引き継がれる仕組みを法律で定めることは、喫緊の課題です。これは、養子縁組事業を「子どもの保護」という視点から改めて捉え直し、国がその最終的な責任を負うという強い姿勢を示す必要があることを意味します。
国際養子縁組で子どもを守るには?情報の一元管理がカギ!
国際養子縁組が増えていることは、子どもを守ることが国境を越える世界的な課題になっていることを示しています。日本政府がハーグ国際養子縁組条約を締結せず、国際的な情報共有や協力体制が不十分なままだと、日本の子どもが海外で困った状況に陥るリスクが高まります。
ハーグ条約の締結は、国際養子縁組における子どもの保護を強化し、出自情報の管理やアクセスを確保し、養子縁組のルールに関する国際的な基準を導入するために不可欠です。現状では締結を検討する議論はないとされていますが、条約に参加することに特にデメリットはないものの、出自情報の管理やアクセス、養子縁組の要件に関する定めがあるため、関係者の意見を聞きながら慎重に検討する必要がある、という見解もあります。
まとめ:子どもたちの未来のために、私たちができること
ベビーライフ事件は、民間団体の無責任な廃業、法律の「抜け穴」、行政の縦割り、そして国際的な連携不足が複雑に絡み合い、たくさんの日本人の子どもたちの安否が分からなくなり、自分のルーツを知る権利が侵害されるという、とても深刻な事態を招きました。2025年3月の今も、174人もの子どもたちの安否が確認できていないという未解決の課題が残されていることは、この問題の根深さと、まだまだ子どもを守る体制に改善が必要であることを示しています。
この事件から学ぶべきことはたくさんありますが、これからの取り組みとして、特に以下の点が大切です。
法律をもっと強く、きちんと機能させること: 養子縁組あっせん法のルールを厳しく守り、民間団体が事業をやめる時に情報をきちんと引き継ぐ義務を強化し、違反した時の罰則も実効性のあるものにすることが必要です。
情報の一元管理とデータベース化: 子どものルーツに関する情報を国がまとめて管理し、データベース化することで、将来にわたって子どもが自分のルーツを知る権利を確実に守るシステムを作るべきです。
ハーグ条約への参加と国際協力の強化: 国際養子縁組で子どもを守るために、ハーグ国際養子縁組条約の締結を真剣に検討し、国際的な情報共有と協力体制を築くことが不可欠です。
省庁間の連携を深めること: 厚生労働省/こども家庭庁、外務省、法務省、そして地方自治体など、関係する省庁が常に連携し、情報を共有し、責任を明確にすることが求められます。
民間あっせん機関へのサポートと監督: お金儲けと公益性のバランスを保ちながら、民間団体が安定して事業を続けられるよう適切に支援し、同時に厳しく監督することで、質の高いあっせんを保証する必要があります。
社会全体の意識を変えること: 養子縁組制度について社会の理解を深め、養親さんや実の親さん、そして養子になった子どもたちが不当な偏見や批判にさらされないよう、継続的に啓発活動を行うことが重要です。
ベビーライフ事件は、子どもの幸せと人権を守る上で、日本の制度が抱える課題を浮き彫りにしました。この経験を無駄にせず、子どもたちの最善の利益を追求する、もっと強く、温かい養子縁組制度を築いていくために、私たち一人ひとりが関心を持ち、声を上げていくことが大切です。
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