未解決の八王子スーパーナンペイ事件 – 30年目の謎に迫る

不可解・不審死事件

事件の概要

真夏の夜に起きた射殺事件: 1995年7月30日、東京都八王子市にあったスーパー「ナンペイ大和田店」の事務所内で、アルバイトの女子高生2人とパート従業員の女性1人が拳銃で射殺されました。犯行は閉店直後の午後9時15分頃に発生し、被害者は矢吹恵さん(当時17歳)、前田寛美さん(当時16歳)、稲垣則子さん(当時47歳)の3名です。遺体はいずれも2階事務所で発見され、3人とも頭部や顔面を撃たれ即死状態でした。店内には抵抗や逃走の形跡がなく、犯行時間はわずか数分間だったと推定されています。

事件直後、スーパー「ナンペイ大和田店」周辺にはパトカーが駆けつけ騒然となった(1995年7月30日夜)。犯人はフィリピン製の.38口径回転式拳銃「スカイヤーズビンガム」を使用し、約2分間に5発を発砲したとされています。従業員3人のうちパート女性は両手こそ縛られていなかったものの、拳銃のグリップで顔面を殴打された形跡があり、その後金庫脇に押し倒されて至近距離から2発撃たれていました。アルバイトの女子高生2人は口に粘着テープを貼られ互いの手を縛られた状態でうつ伏せに倒れ、後頭部にそれぞれ1発ずつ撃たれて即死しています。犯行は極めて冷酷非道で、3人全員が急所である脳幹を正確に撃ち抜かれていました。使用された拳銃は粗悪で命中率が低い種類にも関わらず、このように正確無比な射撃が行われた点も不気味さを際立たせています。

不可解な点: 犯人は3人を射殺した後、現金など何も奪わずに逃走しています。事務所内の金庫には週末の売上金約526万円が保管されていましたが、金庫を開けようとした形跡すらなく、室内の現金や貴重品、被害者の所持品も手つかずでした。金庫の扉には1発の弾痕が残っており、犯人は金品強奪が目的だったようにも見えますが、結果的に何も盗んでいません。犯行後に室内が物色された様子もなく、犯人は足元の血だまりすら踏まずに一直線に現場を立ち去っており、その行動には謎が残ります。

社会的反響: 店舗は住宅街に位置し、近隣では当時盆踊り大会が開かれていました。平和な郊外で起きた女子高生ら3人の射殺事件は世間に大きな衝撃を与え、連日マスコミでも大きく報道されました。当時の日本は地下鉄サリン事件(3月)や阪神淡路大震災(1月)など重大事件・災害が相次いだ年でもあり、夏休み中の高校生が犠牲となった本事件は「スーパーナンペイ事件」と呼ばれて広く知られるようになりました。警視庁は八王子署に特別捜査本部(特捜本部)を設置し、捜査員延べ22万人以上を投入する大捜査に乗り出します。しかし決定的な手がかりを欠いたまま、犯人は現在も捕まっていません。

捜査の進展と現在の状況

初動捜査と証拠: 捜査当局は強盗殺人事件として捜査を開始し、現場検証で拳銃の弾丸や粘着テープ、指紋など多数の物証を回収しました。犯行に使われた粘着テープからは犯人のものとみられる指紋の一部や汗が検出され、犯人が一時手袋を外してテープを扱った可能性が示唆されています。またテープからは被害者とは異なる型のミトコンドリアDNAも検出され、犯人の遺留物と考えられています。一方で目撃証言は乏しく、犯行当夜に「破裂音を聞いた」「不審な男を見た」といった情報がいくつか寄せられたものの、決め手には至りませんでした。事件から15年が経過しようとした2010年、殺人罪の公訴時効が撤廃され、時効を目前に捜査打ち切りとなる事態は免れました。以降も特捜本部は先入観を持たず強盗目的・怨恨(恨みによる犯行)の両面から捜査を続行しています。

主な捜査の進展(年表): 事件発生以降の捜査で浮上した主なトピックを時系列にまとめます。

年月・時期主な捜査の進展・出来事
1995年7月30日八王子スーパー強盗殺人事件発生。特捜本部が設置され大規模捜査開始。犯行現場から粘着テープ、弾丸、指紋など100点超の証拠物が回収される。
2001年11月週刊誌報道で「暴力団関係者が拘置中に事件に言及し、実行犯として元自衛官の実名を挙げていた」との情報が報じられる。しかし具体的な裏付けは得られず。
2003年頃別の強盗事件で逮捕された当時70代の男について、「所持していた拳銃の線条痕が八王子事件の弾丸と酷似」「事件当時八王子周辺に居住」等の共通点が報道される。だが決定的証拠に欠け逮捕には至らず、本人も関与を否定。
2009年 夏中国で強盗団事件の容疑により死刑判決を受け収監中だった日本人男性が、「八王子の事件に関する情報を知っている」と証言。この男は日中混成強盗団のリーダー格で、「日本で共に活動していた中国人メンバーが八王子事件の詳細を知っていた」と供述しました。日本の捜査員が渡中し事情聴取するも、直接的な犯人特定には至らず。
2013年11月上記証言で名前が挙がった中国人の男(福建省出身)を旅券法違反容疑でカナダから日本へ身柄引き渡し・逮捕。この男は90年代に不法入国し中国人強盗グループの一員として活動、事件後にカナダへ渡り永住権を得ていた人物でした。翌2014年に有罪判決(懲役2年・執行猶予5年)を受け即日国外退去となり、肝心の八王子事件については何ら供述を得られませんでした。
2015年2月メディアが「現場の粘着テープから採取された指紋が、約10年前に死亡した日本人男性の指紋とほぼ一致した」と報道。警視庁がテープの粘着面から特殊手法で犯人の指紋片を検出し、1000万人以上のデータベースと照合したところ8点一致を確認。8点一致は1億人に1人の偶然率と言われ、事実上同一人物とみなせるレベルでした。しかし日本の捜査基準で有罪とするには12点一致が必要なため決め手とならず、男性は既に死亡していたこともあり起訴には至っていません。この男性(元運送業者)は事件当時多摩地域に居住し白いセダン車を所有、直前に息子が起こした事故の賠償金に苦慮していたなど不審点も多く捜査線上に浮上していた人物でした。一方で勤務先のタイムカードから事件当夜のアリバイが示唆され、遺族提供のDNA型も犯人のものと一致せず、結局有力容疑者とは断定できませんでした。
2018年7月警視庁が事件発生から23年を迎えるにあたり、現場に残された足跡と同型のスニーカー(英国製リーボック社製・サイズ27.5cm)のレプリカを公開。犯人が当時履いていた靴の特定につながる情報提供を呼びかけました。
2020年7月八王子事件の弾丸と線条痕(銃身の刻み模様痕)が極めてよく似た回転式拳銃が、暴力団組員の自宅から押収されていたことが判明。その拳銃は2009年に押収され組員は服役中でしたが、「2009年5月頃に入手し入手先は言えない」と供述していたことから、この銃が事件に使われた可能性も視野に捜査当局が流通経路や交友関係を調べています。
2025年 現在発生から30年が経過。現在も犯人検挙に至らず未解決事件となっています。警視庁は懸賞金制度に基づき本事件を公募懸賞金の対象事件とし、有力情報には最高600万円(公的懸賞金300万円+民間懸賞金300万円)が支払われるとしています。2025年7月にはJR八王子駅で現場写真入りの扇子を配布し情報提供を呼びかけるなど、風化防止と捜査継続の努力が続けられています。

2004年には雑誌『新潮45』がこの男性を「犯人」と決めつけた記事に対し名誉毀損裁判で賠償命令が下りており、公式には犯人像との結びつきは確認されていない。

ネット上で語られる真犯人説

未解決が長期化する中、インターネット上では様々な仮説や考察が飛び交っています。掲示板やブログ、YouTube、SNS(X〈旧Twitter〉など)でも本事件は度々話題に上り、犯行の動機や真犯人像について一般の人々が推理を巡らせてきました。ここではネット上で語られている主な「真犯人説」をいくつか紹介します(あくまで噂や仮説であり事実と確認されたものではありません)。

  • 外国人強盗グループ犯行説: 犯行が強盗目的とみられることや、拳銃が外国製であることから、「海外の犯罪組織による犯行ではないか」という説が根強くあります。実際、事件当時の多摩地域ではスーパーを狙った強盗事件が多発しており、1994年には近隣の武蔵村山市「スーパーシモダ」で中近東系とみられる2人組による強盗事件が発生し手口が類似していたとの指摘もあります。こうしたことから、ネット上の一部では「犯人はイラン人ではないか」という推測まで飛び出しました。一方、警察捜査でも中国人強盗団との関連が取り沙汰された時期があり、2009年には中国で拘束中の死刑囚が「中国人メンバーが事件の詳細を知っている」と証言、捜査線上に浮上した中国人男性が実際に身柄引き渡しされる展開もありました(前述)。結局この男性から有力な供述は得られませんでしたが、ネット上では「中国系の強盗団が関与している可能性が高い」とする声も根強く残っています。
  • 怨恨・依頼殺人説: 何も盗まずに女子高生2人を含む3人を皆殺しにした残虐性から、「金銭目的ではなく怨恨(恨み)による犯行ではないか」という説も語られています。例えばネットの質問サイトでは「47歳被害者女性と愛人関係にあった不動産会社社長がプロの殺し屋を雇い、女子高生2人は巻き添えになったのではないか」という推理を述べる投稿者もいました。この仮説では、パート従業員だった被害者A(47歳)が標的で、犯人は最初から殺害目的で店に押し入り、目撃者となった若い店員たちも口封じのため射殺したという筋書きです。しかし、捜査当局によれば被害者や店舗関係者で深刻な恨みを買っていた人物は浮上しておらず、現在まで明確な怨恨の線は確認されていません。それでもネット上では「店が万引き犯に貼り紙で罵声を浴びせるなどトラブルを抱えていた点にも注目すべきだ」といった指摘もあり、動機の謎に様々な憶測が飛んでいる状況です。
  • プロの凶悪犯説: 犯行の巧妙さや射撃の正確さから、「相当な訓練を積んだプロの犯行ではないか」との声もあります。現に2001年には暴力団関係者が拘置所で「実行犯は元自衛官」と明かした手紙が存在すると週刊誌が報じています。また2003年に浮上した元暴力団組員の男性は、過去に銀行強盗や現金輸送車襲撃を繰り返し、警察官射殺の前科もあった人物で、本事件の4ヶ月前に起きた警察庁長官狙撃事件の容疑者にも名が挙がった経歴の持ち主でした。この男性は自ら「長官狙撃の犯人」を名乗る一方でナンペイ事件への関与は否定し、その後証拠不十分で立件はされていません。こうした経緯から、ネット上では「実行犯は暴力団関係者か傭われた殺し屋ではないか」「素人にできる犯行ではない」という見方がしばしば議論されています。確かに、高校生2人を含む無抵抗の女性3名を何の躊躇もなく射殺する冷酷さや、反動の大きい粗悪な拳銃で正確に急所を撃ち抜く技量は尋常ではなく、何らかの訓練を積んだ人物像を連想させます。このため「裏社会のプロによる犯行説」はミステリー好きの間でも有力な仮説の一つとなっています。
  • その他の噂や仮説: 上記以外にも、「犯人は顔を見られたので3人を殺害しただけで、強盗が目的の突発的犯行だった」とする説や、「複数犯で計画的に襲ったが想定外の事態で殺人に及んだ」という推理もネットでは語られています。中には陰謀論的に「真の黒幕」が存在すると唱える向きもあり、あるブログでは「実は地元の有力者が中国系マフィアを招き入れ、土地利権絡みで事件を起こさせたのではないか」といった極端な仮説まで見られました(根拠はなく信憑性は極めて低いですが)。このように、多くの人が未解決の謎に様々な想像を巡らせており、インターネット上では今なお議論が続いています。

事件の風化と社会的関心

風化との闘い: 発生から年月を経るにつれ、事件の記憶が風化していくことが懸念されています。「忘れられることが、いちばん怖い」――被害者の後輩であり現在教師を務める木村智次さんはそう繰り返し語っています。木村さんは犠牲になった矢吹さんと同じ桜美林高校の卒業生で、事件後も30年にわたり母校で後輩たちに命の尊さを語り継いできました。「記憶が薄れ痛みが遠のけば、命の重みまで静かに風化してしまうのではないか」という木村さんの危機感は、事件を風化させまいとする遺族・関係者たち共通の思いでもあります。

遺族・関係者の思い: 被害者遺族や友人たちは年月が経った今も無念を抱え続けています。事件から29年となった2024年には、矢吹さんが在籍していた中学・高校で同級生らによる追悼式が行われ、「解決を信じている」と親友が語ったことが報じられました。毎年の命日や文化祭では、有志の卒業生が校内に事件の記録写真や記事を展示し、来場者にアンケートを取るなど「記憶を継ぐ」取り組みも続けられています。また遺族の中には、事件発生から15年後に「元気でいてさえくれればよかった」と涙ながらに語った方もおり、愛する人を奪われた無念は歳月を経ても癒えることがありません。

社会の関心と捜査の継続: 八王子スーパーナンペイ事件は、警察庁の公的懸賞金制度対象にも指定されており、日本の平成期「3大未解決事件」の一つとも称されています(他の代表的未解決事件とともに度々メディアで特集されています)。警視庁は現在も特捜本部を存続させ捜査を継続中で、わずかな手がかりも見逃さぬよう証拠の再分析や国内外の聞き込みを続けています。2025年7月には警察署員らがJR八王子駅で現場写真入りの啓発用扇子を配布し、事件を風化させないよう市民に協力を訴えました。事件現場となった店舗跡地は現在駐車場になり静けさを取り戻していますが、その静寂は未だ犯人が捕まっていない現実を物語っています。30年という長い歳月が流れましたが、「いつか真実に辿り着いてほしい」という遺族・関係者、そして事件を知る多くの人々の願いは今も消えることなく息づいています。警察と社会の粘り強い努力が実を結び、この不可解な事件の謎が解き明かされる日が訪れることを願わずにはいられません。

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